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BP02 広島死闘編
「曲が決まったぞ」
 教室に飛び込んでくるなり、芦野は西秋のもとに駆け寄った。
「ほんまか」
「ほんまじゃ。今、先生が言うとった。レッスンの後で譜面とテープを渡してくれるらしいわ」
「どんな曲じゃろう。タイトルは聞いたんか」
「ああ聞いたとも。『URANAI★ペロリンチョ』じゃと」
「な、なんじゃそりゃあ!」

★  ★  ★

「な、なんじゃそりゃあ!」
 レッスン室でふたりからその話を聞いた大木も、目を剥いて驚いた。
「それではまるでコミックソングじゃろう。芸人か、わしらは」
「まあ落ち着きんさい」
 西秋が興奮する大木をなだめた。
「これが落ち着いておられるか。わしら舐められとるんじゃ。だいたい西秋さんがいつもブリブリしとるから、つけ込まれるんじゃろう」
 気持ちをどこにぶつければよいのか、混乱した大木は西秋に矛先を向ける。まあ、八つ当たりだ。
「聞き捨てならんな、大木さん。わしが先生がたにブリブリしたおかげでデビュー第一号に選ばれたようなもんじゃ。感謝されこそすれ非難される謂れはないわい」
「熱うなりなさんなや。あんたちゃあ、いつもかつもどがいもならんのう。まずは曲を聴いてからじゃ」
 芦野がいつもの役回りで二人を取りなす。

 芸能スクールであるアクターズステージが生徒を集めるには、レッスンさえ提供すればいいわけでなく、スターを生み出すことで実績を示す必要がある。そこでスクールは開校時より大手芸能プロダクション、Confuseと提携を結んでいた。Confuseも手つかずの才能をいちはやく獲得できるメリットがある。両者の思惑が一致したのだ。しかし、海のものとも山のものとも判らない新人をいきなりデビューさせるのは、あまりにリスクが高い。そのためスクールとConfuseは共同で低予算のインディーズCDを制作、地元限定でリリースし、マーケティングを行うことになった。

 スクール第一期生の中からユニット代表として選抜されたのがBPだった。結成して半年、彼女たちは他に抜きん出て注目を集めるようになっていた。厳しいレッスンを重ねて身につけた実力もさることながら、西秋が狙ったBPのキャラクターがそれを後押ししていたことは間違いない。謎めいた大木、清楚な芦野、華やかな西秋といった三人の取り合わせの妙は、BPの大きな魅力だった。自らの力で掴み取ったCDデビューの権利、その評判如何で彼女たちの将来は決まるのだ。

 スクールのオーディオルームで、渡されたテープを聴き終わった三人は放心した顔つきで再生装置を眺めていた。
「こ、これは……」
 ようやく西秋が口を開いた。
「……相当な代物じゃのう」
「わしゃあ故郷(くに)に帰りとうなったわ」
 大木が天を仰いだ。
「おうちは新幹線ですぐじゃろう。それよりどうしたもんかのう、これは」
 芦野が、彼女には珍しく暗い声でふたりに問う。

 彼女たちにデビュー曲として提供された「URANAI★ペロリンチョ」は、SPADEなき後の芸能界を席巻したモーニング少女隊をイメージさせる、超アイドル指向の出来映えだった。いまや、本格的に歌で勝負するタイプの若手アーティストは姿を消していた。SPADEの時代はすでに終焉を迎えていたのだ。

「SPADEになるはずがモー女か。うまくいかんもんじゃ」
 大木の受けたショックは相当なものだった。三人はしばらくの間うつむいて黙り込んだ。やがて西秋がゆっくりと顔を上げた。
「ええじゃろう。完璧に演じてやろうや」
「やるんか、西秋」
 芦野が西秋の表情をうかがう。西秋は自信に満ちた笑みを浮かべながら続けた。
「ただ唄うただけじゃあ、出来上がるCDは子供騙しのアイドルソングに過ぎん。そりゃあわしにも判る。じゃけ、わしらの持つ力をすべて注ぎ込むのよ。ほしゃあ、絶対にそれをはみ出す部分が出てくるじゃろう。そこんとこがBPちうわけじゃ」
「西秋さん。あんたは……」
「こがいなちっこい枠にはまるわしらではなかろう。大木さん、BPの力を見せつけてやろうや」
「……あんたは、ばりプラス指向じゃのう」
 大木が呆れたように言った。しかし、その顔から迷いはすっかり消えていた。


★  ★  ★


 完成した三人のインディーズデビューとなるCDは、地元商工会の協力も得て市内CDショップ各店に並べられた。同時に店頭や各種イベントに三人が直接足を運んでキャンペーンも開始された。小さなスペースで、カラオケに合わせてパフォーマンスを行うのだ。

 商店街にいきなり現れた見慣れぬ三人娘に、道ゆく人々はわずかに驚きの表情を浮かべたが、わざわざ足を止めることはなかった。それどころか、全く無名の垢抜けない少女が派手な衣装で笑顔を振りまく姿は、失笑をさえ誘った。しかしひとたび曲が始まると、あたりの雰囲気は一変した。三人の存在を意に介せず通り過ぎていた人波が、彼女たちのパフォーマンスに気圧されたように流れを変え、やがて三人を取り巻く形で人の輪が作られていった。彼女たちの発する熱気は、店の用意したスペースにとても収まるようなものではなかったのだ。BPの名はキャンペーンのたび、少しずつだが着実に知られるようになっていった。

「アイドルちうのんも、やってみたら存外面白いもんじゃのう」
 何度目かのキャンペーンを終えて移動車のシートに腰を下ろすと、息を弾ませて芦野が言った。
「あんたぁいつも能天気で羨ましいわい。西秋さん、どうじゃろう。感触は悪うない思うたが」
 大木が汗を拭いながら、芦野から西秋に視線を移した。
「足を止めて聴いてくれる人は増えとる。場所が小さすぎて判りにくいがの」
 西秋は、助手席に座ったConfuseのスカウト担当スタッフである柴山に、皮肉とも取れるような言葉を投げた。
「君たち、キャンペーンに不満なのかな」
 柴山が薄笑いを浮かべて西秋に言った。
「販促が大事なんは知っとるわい。ただあんたも見とったじゃろう、あれくらいのスペースではわしらの力を伝え切らん。もっと広い場所が必要なんじゃ」
「スペースの大小は関係ないよ。要は君たちに伝える気持ちがあるかどうかだ」
「気はあるに決まっとろうが。何を抜かす」
 西秋は気色ばんだ。
「まだまだ元気だな。じゃあ次回はその『気』とやらを存分に見せてもらおうか。場所はアルパレスだ」

 彼の言葉に三人は息を呑んだ。


★  ★  ★


 アルパレスは市内でも最大級のショッピングモールで、その中央にある広場にはイベントスペースが設けられている。広い階段が三方を取り囲み、4階まで吹き抜けになった回廊からも見下ろすことのできる構造だ。軽く見積もっても1000人は集められる大きさだろう。ここでイベントが行われるということは、キャンペーンとして最大規模であることを意味する。

「さすが週末じゃ、買い物客が多いわ」
 控え室のモニターで会場の様子をうかがっていた大木が振り向いて言った。
「まさかほんまにアルパレスを抑えるとはのう。スクールもようやってくれたもんじゃ」
 メイクに余念のない西秋が、睫毛を整えながら答える。
「ふわあ。緊張すると眠くなってかなわん」
 眠気覚ましに室内をうろうろ歩き回っていた芦野が、ソファにどすんと腰を下ろした。大木が可笑しそうに茶々を入れる。
「あんたぁ、いつも眠たがっとろうが。緊張感なさすぎじゃ」
 ノックと共に、ドアの向こうから柴山の声が響いた。
「時間だ」
「っしゃあぁぁぁぁぁ」
 手鏡を放り投げて西秋が勢いよく立ち上がった。
「根性入れていこうや!」
 芦野と大木も席を立ち、西秋に続く。
「おう!」

 三人が控え室を出ると、柴山が通路の先を指差した。
「あそこに君たちの未来がある。その『気』があれば、掴めるはずだ」
 西秋は険しい目で柴山を睨むと、ふと表情を緩め、にっこり微笑んで言った。

「最後まで見ててね」

 その瞬間、彼の背筋にぞくりとするものが走った。自身もかつて音楽活動の経験がある柴山は、まだ中学生の三人組にトップアーティストと同じ種類の匂いを感じたのだった。
 彼女たちは呆然とする柴山を後に、背筋を伸ばして揚々とステージへ向かった。
(これは大変な宝物を掘り当てたかもしれない……)
 三人の後ろ姿を見送りながら、彼はそう思った。知らぬ間に彼の掌は、汗でじっとり濡れていた。

「本日のゲスト、Black Perfume の皆さんです」
 司会のアナウンスで「URANAI★ペロリンチョ」のイントロが始まり、三人は舞台に飛び出した。
 ステージ前に設けられた50余りの座席に客はまばらで、買い物客も彼女たちには目もくれず、通路を通り過ぎていくばかりだ。西秋はいきなりアクセルを全開にした。

「いくぞぉぉぉぉーーーーー!」

 バックトラックをかき消す圧倒的なボリュームで西秋の掛け声が会場いっぱいに響き渡ると、その場にいたすべての人々が一瞬動きを止め、ステージに注目した。
(さあて、曲が終わるまで、あんたがたの目を釘付けにしてやるわい)
 西秋の表情は、観客にそう宣言するかのように輝いていた。


★  ★  ★


 BPのファーストシングルは広島で評判を呼んだ。半年後リリースしたセカンドシングル「彼氏急募・委細面談」も完売、BPの人気が本物であることが証明された。そしていよいよ彼女たちは東京を目指すことになる。結成から一年半、BP第二期の幕開けだ。


つづく

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【2007/01/22 18:00】 | あばれ旅
Black Perfume
あばれ旅


花の東京で天下を取れ! 大木黒綾ノ、西秋黒文香、芦野黒優香。広島出身のBP三人娘が繰り広げる、愛と涙の大冒険。

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Author:pinksun
※このストーリーはフィクションであり、登場人物、団体名等は全て架空のものです。
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