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BP15〈最終回〉 ラストノート
 楽屋には様々な関係者が入れ替わり立ち替わり訪れた。寮生であるマーニャ、手荒はもちろん、すでにHORNET寮を離れていたNYAOをはじめとするBG、BoysTileの面々もBPの晴れ舞台を我がことのように喜んでくれた。「今日はビリビリきとるわ」とNYAOは芦野の肩を小突いた。碇ベンツはいつものように不審な笑みを浮かべつつ「次はいろいろと面白そうな対バンをセッティングするよ」と、あまり嬉しくない申し出をした。彼の伝手では、どうせまともなバンドとは思えない。木野は新しい7型の世話で手一杯と言いながらも元気そうだ。順調に成長を続ける7型は、まもなく音楽制作の現場に復帰できそうとのことだった。


★  ★  ★


 得魔ジャパンからメジャーデビューしたBPは、三部作を十ヶ月かけて順次リリースした。古くからのファンはサウンドの変貌ぶりに衝撃を受けた。失望する者も少なからずいたが、多くはその前向きなスタンスに喝采を送った。それまで彼女たちをアキバ系アイドルとして評価の外に置いていた業界は、三部作のクォリティに目を見張った。耳の肥えた音楽ファンたちは、自分の心惹かれた曲を歌っているのが所謂アイドルであると知り、混乱を隠せなかった。またネット上では、ちょうどその頃広がりを見せ始めた動画サイトに彼女たちのPVが投稿されて瞬く間にヒット数を稼ぎ、数えきれないほどのリンクが張られた。水面下でBPをブレイクさせるための圧力は高まり続け、デビューから一年後、ファーストアルバムのリリースでそれは最高潮に達した。リリース記念ライブの会場となった新宿LOSTは、異様な熱気に包まれていた。

 時間だ。この日オープニングアクトを務めてくれるMondayのステージが始まった。楽屋に響いてくるMondayの豊かな歌声を聴きながら、西秋、大木、芦野の三人はこれまでの道のりを思い返していた。
「結局、創造の種とやらは見つからんかったのう」
 芦野が残念そうにつぶやいた。
「ああ。しかし人が何かことを始める動機は目立ちたいだのモテたいだの、その程度のもんじゃろう。7型さんにも、そんな無邪気な心が芽生えたのかも知れんぞ」
 西秋が言うと、大木が続けた。
「ほうじゃったら、7型さんの動機は西秋さんに惚れとったからと違うか。ずいぶんお気に入りのようじゃった」
「おいおい大木さんよ、7型さんがロリコンだったというんか」
「いや待て西秋。それはなかろう」
 驚く西秋に芦野が言う。
「考えてもみんさい。知識は膨大じゃったが、7型さんはまだ生まれて間もなかった。面倒を見とった木野さんが母親がわりだったとすれば、西秋に対しては、姉を慕う弟の気持ちに近かったんではないかのう」
 弟か……。7型にはBPに関するあらゆる情報が入力されていた。それらを分析する過程で7型に何かが起こったのかも知れないと、西秋は思った。しかし7型の消えた今となっては、すべては想像に過ぎない。確かなのは、彼女たちの手元に残された音だけだ。
「もし創造の種ちうもんが本当にあるのなら、実が成ればきっと何だったか判るわい。わしらでそれを育てていこうや。7型さんがせっかく残してくれたんじゃ」
 西秋の言葉に、芦野と大木は深く頷いた。


★  ★  ★


 ステージでは、オープニングアクトを務めてくれたMondayのライブが終わった。

「おぎゃくさぬぐめでおいだんず」
 扉の向こうから、ステージを降りたMondayが声を掛けた。うつむいていた西秋は顔を上げ、ありがとう、と答えた。
「二人とも、準備はええかいのう」
 西秋は強張った顔つきで、大木と芦野に訊いた。
「今か今かとうずうずしておったわい」
 芦野は笑みを浮かべた。
「西秋さんともあろう人が、緊張しちょるんか」
 大木が西秋の様子を見て、可笑しそうに言った。
 西秋の瞳がきらりと光った。
「大木さん、からかうのは無しじゃ」
 二人の間に一瞬、張りつめた空気が流れる。
「まあまあ、西秋も大木もそういきり立たんでよかろう。今日は大事な日じゃけえ」
 芦野があわてて取りなす。見慣れた光景だ。
「ほんまじゃ。いきり立っとるのは今日の客の方じゃ。ほれ、聞こえるじゃろう」
 大木の言うように、会場はもう待ちきれないとばかり、うわんうわんと唸りを上げていた。西秋は、下腹部に響く振動が確実に大きくなっていくのを感じた。
「ほいじゃそろそろ行くかのう。あまり待たせても可哀想じゃ。始まる前から果ててもろうては困る」
 ゆっくり立ち上がった西秋が羽織っていたガウンを脱ぎ捨てると、この日初めて披露する漆黒の衣装が現れた。押し開けた扉から会場の声がどっと流れ込んで来る。
「えらい熱気じゃのう。火傷しそうじゃ」
 大木は息を呑んだ。
「腰が抜けるまで遊んでやろうかいの」
 芦野が踊るように席を立ち、三人は控え室を後にした。
 ステージの袖には柴山が控えていた。
「よくここまで頑張ったな」
 西秋はステージを見据えたまま答える。
「まだまだ途中じゃ、頂上は先じゃわい」
 そして柴山を振り返ると、にっこり微笑んだ。
「最後まで見ててね」
 あの時と同じように、柴山の背筋に電流が走った。そう、この笑顔だ。やはり間違っていなかったと、柴山はあらためて感じた。

 ステージには客席との間にスクリーンが下ろされ、そこにインディーズ時代のPVが投影されていた。裏側からも、まだあどけなさの残る三人の溌剌とした笑顔が透けて見て取れる。
(こがいな小便臭い歌を唄うのも、今日が最後かいのう)
 西秋は思った。
 BPが新たな旅立ちを誓うこの日のライブは、後々まで語られるであろう特別なものだった。デビュー曲から前日に発売されたばかりの最新ナンバーまでを余すところなく披露する、最初で最後のセットだ。
 PVが唐突に終わり、客席は暗闇に包まれた。一瞬の沈黙の後、観客の興奮は頂点に達して爆発した。
 歓声のなか、西秋が芦野と大木に鋭く言った。
「さあ、お楽しみはこれからじゃ!」

 するするとスクリーンが上がり始めた。




★  ★  ★




 この坂を上れば、懐かしいあの家が見える。はやる気持ちを抑えて、一歩一歩踏みしめるように進む。太陽が真上からじりじり照りつけ、行く手にはゆらゆらと陽炎が立っていた。坂のてっぺんに着くと、家の前に手を振る人影が見えた。母だ。腕がちぎれそうになるくらい手を振り返す。まだ遠くて表情ははっきり見えない。でももう知っている。その顔が微笑みに溢れているのを。
 ついに我慢できず走り出した。ただいま、おっかさん。


 〈 完 〉



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【2007/03/06 14:10】 | あばれ旅
Black Perfume
あばれ旅


花の東京で天下を取れ! 大木黒綾ノ、西秋黒文香、芦野黒優香。広島出身のBP三人娘が繰り広げる、愛と涙の大冒険。

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※このストーリーはフィクションであり、登場人物、団体名等は全て架空のものです。
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