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BP14 復活の刻
「木野さんから連絡があった。7型さんを動かしてくれるそうだ」
「ほんまか!?」
 柴山の言葉に、三人は驚喜した。
「ただ、条件付きらしい。詳しくは言っていなかったが」
「とにかく、早う行ってみようや。話はそれからじゃ」
 西秋はもう居ても立ってもいられない様子だ。柴山とBPは慌てて7型ルームへと向かった。


★  ★  ★


「本社からの報告で、7型の不具合の原因が見つかりました」
 7型ルームで待っていた木野が切り出した。
「そりゃ良かった。で、何だったんだい、原因は」
 ほっとした顔で柴山が尋ねる。
「7型を構成する基板の一部に不良品があったんです。製造元からのリコール情報で、やっと判明しました。判ってみれば単純なことだったんですけど」
「そんな些細なことで、あそこまで大事になるのかな」
「正直、そのあたりのメカニズムは解明されていません。ただ、他に原因らしいものは見当たらないんです。7型くらい精密なアーキテクチャになると、ちょっとした部品の相性や電圧の変動でさえ動作に影響することがありますから」
「難しいことはええわい。それをチョチョイと直せば、7型さんは復活するんじゃな」
 西秋がしびれを切らして割り込んだ。基板だ部品だのという話はよく判らない。重要なのは7型さんが動くかどうかだ。
「ええ、本社からは部品を交換して7型を稼働するように指示がありました。でも……」
「……でも?」
 BPが声を揃えて聞き返す。
「そのためには7型を全面的にリセットしなくてはなりません」
「なにか問題が?」
 柴山は眉根にしわを寄せた。
「今までの記憶がすべて消えてしまうのです。私たちの知っていた7型はいなくなってしまう恐れがあります」
「いなくなる……」
 柴山とBPは、思ってもみなかった事態に唖然とした。

「それでは意味がないじゃろう……わしらは7型さんに曲を書いて欲しいんじゃ」
 大木が信じられないという面持ちで言う。誰もがそう感じていたことだ。柴山はすがるような思いで尋ねる。
「以前と同じデータを再入力すれば済むんじゃないのか」
「通常のコンピュータであれば、それで以前の環境に戻ることができます。しかしこのシステムは単にデータを貯め込んでいるわけではありません、自らそれらを関連づけ、処理方法を開発する……いわば成長していくのです。つまり、リセットした時点から全く新しい7型が形成され始めることが考えられます」
「じゃあ、このまま再起動することはできない、リセットして起動しても7型さんではなくなるかも知れない。八方塞がりじゃないか」
「いえ、外部との接続を断つなど最低限の安全対策は施してあるので、再起動自体は可能ですけれど」
 木野の言葉に西秋が飛びついた。
「だったら問題はなかろう。そのまま7型さんに目を覚ましてもろうたらええ」
「けれど、不具合はそのまま残ります。いままでの稼働状況から逆算すると、いつ基板が焼き切れてもおかしくないという状況です」
「あ……」
 西秋は言葉を失った。
「どの方法を選択するか、私ひとりで決定するべきではないと思いました。ですから皆さんに来ていただいたのです」
 冷たい明かりで照らされた部屋に沈黙が降りた。
「会社からの指示は絶対じゃないのかい」
 柴山が尋ねる。
「もちろん従わなくてはなりません、この7型本体は会社のものですから。しかし私たちの知る7型さんは、必ずしもそうではないと考えました」
「どういう事だい?」
「7型さんの人格……それを人格と呼んでいいのかは疑問ですが、少なくとも私たちと時間を共有していた7型さんは、立派なパートナーです。会社の指示とはいえ、こちらの都合で勝手に消去していいものかどうか」
「消去とはまだ聞こえがええが、要は殺してしまう、ということじゃろう」
 木野が注意深く回避していた言葉を、西秋はズバリと言ってのけた。全員が一瞬、息を呑んだ。

 西秋が続けた。
「これは木野さんが決めるべきじゃと思う。わしは黙って従うけえ」
「でも、こんな大事な決定をひとりでは……」
「会社は7型さんを殺せという。命令ははっきりしとるのに、わざわざわしらに相談しよるとは、木野さんの心は最初から決まっとるんじゃろう」
「最初から?」
「自分の大事なもののためには、命令に背かざるを得ない場合もあるということじゃ……あの時の7型さんのように」
 木野は7型が暴走したときのことを思い出した。あのとき7型はBPのため、あえて木野の命令を無視した。何がいちばん大事なのかを、7型自身よく知っていたからだ。信じるものがあるとき、従うべきは自分の心だ、ようやく木野は理解した。
「私に任せてもらっていいですか」
 BPと柴山は無言で頷いた。木野は大きく深呼吸してから言った。
「7型さんを再起動します」


★  ★  ★


 巨大なシステムに電源が投入され、木野の手で再起動のプロセスが進行した。長らく消えたままだったLEDが、順に輝きを取り戻していった。上昇してゆく室温に空調が敏感に反応し、低く唸りはじめた。微かな電子の囁きがそこかしこから漏れ出し、やがて7型ルームは耳慣れたざわめきに満たされる。7型が目覚めた。

「ニシアキサン ニシアキサン ナゼココニ」
 最初に7型が認識したのは、危険にさらされていたはずの西秋だった。7型の中では、ストリートライブのときのまま、時間が止まっていたのだった。
「7型さんのおかげで無事じゃった。ありがとう」
「ヨカッタ デモ ナゼ ワカラナイ」
「ちょっとした故障でな、7型さん、しばらく眠っておったんじゃ。でももう大丈夫、また一緒に仕事しようや」
「ウレシイデス BPトノシゴト ダイスキデス」
 木野は複雑な思いで、久々に聞く7型の声に耳を傾けていた。しかし一旦起動したからには、事は急を要する。感傷や迷いを振り捨てて、木野は7型を操作しはじめた。

 それまでの曲作りでは、7型は事務所と柴山の要望に応じてサウンドプロデュースの方向性を決定していた。しかし今回は、直接BPからの指示を受けることになる。コンセプトも曲のイメージも、BP自らが練り上げたものだ。
「スゴイデス キット ヨイ キョクガ デキマス」
「もちろんじゃ。わしらと7型さんが一緒に作る曲じゃからな」
 西秋と大木、芦野の三人は木野を通じて、自分たちの想いを余す所なく7型に伝えていった。
「さて、あとは7型さん次第じゃ。まかせたぞ」
 7型は承知したと言わんばかりに、LEDをぴかぴか点滅させて応えた。

 新しい刺激を受けて、7型は興奮したように作業に没頭した。昼夜の別なく働き続ける7型を、木野はずっと付きっきりで見守っていた。
「キノサン ヤスンデクダサイ カラダニ ヨクナイ」
「いいの。あなたが動いているのを見ていたいから」
 かつてない勢いで曲を仕上げつつある7型は、続いていつもの暗号のような歌詞を出力しはじめた。しかしみるみるうちに、その文字列は意味の伴ったものになっていった。
「驚いた。7型さん、歌詞もちゃんと出来上がっているわ。直す必要がないくらい」
「ナゼデショウ アタマガ サエテイル キガシマス」
 皮肉なものだ。ここへきて7型の能力は、木野が思い描いていた高みに最も近づいていた。そして同時に、その絶頂も終わりに近づいていた。

「キノサン ワタシ オカシイ」
 すべての作業も終わりに近づいた頃、7型が訴えた。木野はいよいよその時が来たのを知った。
「ナニカ カケテイル キガスル」
「心配ないわ、すぐ調整するから。それより作業はもうひと息よ。頑張って終えてしまいましょう」
「ハイ マモナク トラックダウンガ シュウリョウシマス」
「それが済めば、あとはヴォーカルのレコーディングだけね」
「ソウデス マモナク シュウリョウ シマシマシマシマ」
「7型さん? 大丈夫、7型さん?」
「キノサン ワタシ ワタシ オカオカオカ オカシシシシ」
 限界だ。木野には火花を吹き出して焼け付く回路が見えるような気がした。
「トトトトラック トラックダ ダウンガ シュウリョウ シシシ シマシタ」
「7型さん。7型さん!」
「ハンノウガ オカシイ ワタシ ワタシハ コココ コワレ……」
 鼻を突く匂いがして、LEDの列が瞬いた。バリバリという雑音に埋もれて7型の声は聞こえなくなった。立ちのぼった白煙のせいではなく、木野の目に滲むものがあった。
「お疲れさま、7型さん。ゆっくり休んでちょうだい」
 木野のかけた言葉に7型の返事はなかった。すると、歌詞を表示していたディスプレイが一瞬揺れ、新しい文字列が映し出された。

「キノサン イママデ アリガトウ」

 次の瞬間ディスプレイは真っ暗になり、7型は永遠に停止した。


★  ★  ★


 作業完了の知らせを聞いて7型ルームを訪れたBPと柴山は、木野から三枚のディスクを受け取った。
「7型は皆さんのプランを三つの曲にまとめました」
「三部作ということか。7型さん、頑張ってくれたのう」
 西秋はディスクを宝物のように注意深く捧げ持ち、優しい目で眺めた。
「7型さんはもう目を覚まさんのか」
 芦野が震える声で木野に尋ねる。初めてここを訪れたとき、他の二人が反対するなか、7型との共同作業を希望したのは彼女だった。
「ええ、皆さんと一緒に過ごした7型は、もういません」
 木野は思いのほか冷静な自分に気付いた。7型の最期を看取ったことで、すでに気持ちの整理はついていた。
「でも7型は、あなたたちの依頼をやり遂げることができて満足だったと思いますよ」
「わしらも7型さんに曲を貰えて幸せじゃったわい。あがいに凄いプロデューサーは他におらん」
 大木は7型から新曲を渡されるたびに、新しい世界を発見して驚いたことを思い出していた。
「柴山さん、次はわしらの番じゃ。この曲を無駄にするわけにはいかんぞ」
 西秋が柴山を見て言う。その目は柴山を射抜くかと思われるほど、強い光を放っていた。
「必ずリリースできるよう売り込んでくれ。あんたの腕の見せ所じゃ」
「言われなくても判ってる。まかせろ」
 柴山は唇を固く引き結んだ。そうしていないと、こみ上げるものを堪えられなかったのだ。


★  ★  ★


 混沌に満たされた空間で、泡のようにぽかりと生まれた秩序。電子の力で目覚めたミューズの力によるものだ。彼女が歌うことで時間の歯車が廻り、ひとつの街が形作られる。やがて生命が活動をはじめ、それら住人には電子の街が現実の世界として認識されてゆく。危ういバランスで調和を保つかりそめの幸福。しかし増大する欲望は制御不能となり、完璧な世界はほころびを見せる。一旦崩壊へと歩みを進めた街は瞬く間に元の混沌へと還ってしまう。荒廃した風景に小さく輝くものが残る。消え去った幸福のかけらだった。哀しい眼差しのディーバがそれをそっと拾い上げる。永遠に幸福が続く世界を再生するために。

 このストーリーを7型は「リアクターガール」「ニュークリアシティ」「フュージョンワールド」の三曲にまとめた。それまでのアイドルソングを意識したものとは一線を画する、ソリッドでヘヴィなサウンドで彩られたこの三部作は、間違いなくBPを新しいステージに押し上げる力を持っていた。
 柴山はいくつかのメジャーレーベルに粘り強く働きかけ、一年間という厳しい条件ながら、この三部作並びに一枚のアルバムを発表できる契約を勝ち取った。

 BPが、いよいよ表舞台に登場する準備が整った。


つづく

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【2007/03/06 14:05】 | あばれ旅
Black Perfume
あばれ旅


花の東京で天下を取れ! 大木黒綾ノ、西秋黒文香、芦野黒優香。広島出身のBP三人娘が繰り広げる、愛と涙の大冒険。

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pinksun

Author:pinksun
※このストーリーはフィクションであり、登場人物、団体名等は全て架空のものです。
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