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BP09 狂い咲きセンターロード
「チラシはこがいな具合で良いじゃろうか」
 芦野が手書きのフライヤーを西秋と大木に掲げて見せた。
「おお、ええのう。いかにもオタ心をくすぐる出来じゃ」
「誤字をくしゅくしゅとつぶして、書き直してある辺りが憎いわい」
 西秋と大木がそれを満足そうに眺める。
「うはは。マーニャに指導してもろうた甲斐があった」
 オタのことはオタに訊くに限る。芦野は高笑いした。

 冬も終わりに近づいていた。三人の中学卒業を目前に控えた三月にセカンドシングル発売が決定し、BPはそのプロモーションを兼ね、いよいよ秋葉原でストリートライブを行う事になった。アドバイザーとして碇も交え、スタッフ一同はライブ実施方法についての細かい部分を詰めていた。

「アキハバラハ ホントウニ ダイジョウブ デショウカ」
 7型はここのところ、その心配ばかりしている。
「平気ですよ、柴山さんも碇さんもついていますし。気になるなら音声データだけでなく、ライブ映像もモニタリングしますか」
 映像の解析機能が7型に備えられていない事を知りつつ、木野はそう答えた。日に何度も繰り言めいた心配を聞かされ、いささか気に障っていたのだった。しかし、なぜ7型の言うことに人間である自分が気持ちを左右されるのか。コンピュータをいつしか対等の存在として感じ始めているのに気付き、木野は狼狽した。これは7型が変化していることを示すのか。それとも自分が?
「7型さんも、もうちっと小さかったら連れて行けるのにのう」
 西秋が慰めるように声を掛けると、7型は照れたようにLEDをぴかぴか点滅させた。
「でも、こんなコンピュータがアキバに出掛けたら、物珍しくてあっと言う間に分解されそうだね」
 横から碇が混ぜっ返すが、大人げない言い方はやめんさいと西秋にたしなめられ、ばつが悪そうに下を向いた。
「アリガトウ ニシアキサン」
 自分に対する感情を認識するばかりか、感謝の意識まで生まれている。やはり7型はさらに進化し続けている、木野は確信した。しかし、もともと7型にそんな潜在要素は与えられていないはずだ。7型の思考パターンを決定するロジックの基本的な部分から見直す必要があるかもしれない。

「では明日からHORNETの公式サイトにも告知を掲載しよう。一週間後が本番だ」
 柴山が会議をまとめた。いくら細かく打ち合わせをした所で、路上では何が起こるか判らない。結局成功の鍵を握るのは的確な状況判断と迅速な行動だ。いよいよ現実味を帯びてきたその時への緊張感が、早くもBPたちを興奮させていた。


★  ★  ★


 ストリートライブの本番当日。春に向かいつつあった季節が心変わりしたかのように、真冬の寒さが戻ってきていた。BPが通りすがりの人々に自分たちの歌を聴かせるのは、広島での街頭キャンペーン以来のことだ。それも舞台はオタクの聖地、秋葉原である。彼女たちが受け入れられるかどうかは、まったくの未知数だ。灰色の空の下、通りはいつもと同様に賑わっていた。

「『モノクローム・ヨシモト』に似合いの天気じゃ。街もモノクロに見えるわい」

 白いツナギに身を包んだ西秋が新曲のタイトルに掛けて言った。用意したビラはすべて、既に配り終えている。ライブ開始の時間が刻々と迫っていた。
 現場には柴山、彼が事務所に要請した応援が数名と、碇の姿があった。他に碇の伝手で、音楽やサブカル系雑誌の取材陣も呼び集めているらしい。用意された音響機材は手持ちの出来る小規模なものだが、それらは7型によって、リアルタイムで遠隔操作できるようにセッティングされている。限られた時間を最小限のリソースで最大限に活かすために整えられた、機動力のある構成だった。あとはBPのパフォーマンスがどれほど注目を集められるかだ。
「時間だ」
 柴山の合図とともに機材を抱えたスタッフが駆け出した。何度もリハーサルを重ねた彼らは、瞬く間に即席のライブスペースを作り上げた。道ゆく人々は、何が始まるのかと眺めている。
「このモノクロの街を、わしらのカラーで染め上げるんじゃ。芦野、大木さん、行こうや!」
 西秋のかけ声とともに、三人は形をなしつつある人の輪の中心に飛び出した。

「はじめまして。Black Perfumeです!」
 同時に遠く離れたコンピュータルームで、7型がストリートライブ用に音響を調整した「おいしいレシチン」のトラックをスタートさせた。このスピード感溢れるキュートなサウンドと、ひたすら跳ね回るような躍動的なダンスは、秋葉原の路上であまた行われるライブの中でも、ひときわ人目を引くものだった。ひとり、またひとりと立ち止まるものが増えていく。やがて、ぞくぞくとギャラリーが集まり始めた。
 もちろん新しいものに敏感なオタクたちも、これを放っておくはずがなかった。彼らのアンテナにBPの歌とダンスがダイレクトにヒットすると、途端に彼らの眼差しが変化した。
(見とる。ものすごい勢いで見とる!)
 彼女たちは初めてさらされたオタクたちの視線に驚いていた。その鋭さは、まるでCTスキャンだ。それに負けじと、三人のパフォーマンスはヒートアップしていった。
 7型は現場の状況を逐一モニタリングしながら、絶妙に音場をコントロールした。ステージの周囲を球形に包み込むように形成されたサウンドスペースの効果で、聴衆はBPの歌を、細かいニュアンスに至るまで聞き分けることができた。人の輪が広がっていくのに応じて、サウンドスペースも拡大されていった。
 一曲目が終わった途端、大きな拍手が起こった。これはいける。三人は上気した顔を見合わせて、にっこりと笑った。
「ありがとうございます。次はもうすぐリリースされる新曲、『モノクローム・ヨシモト』です!」
 白い息がふわりと天に昇った。

 ライブが続くうち、いつしか雪がちらつき始めていた。しかしすでにBPも聴衆も、寒さなど微塵も感じてはいなかった。


★  ★  ★


碇ベンツの『男だったらこれを聴け!』
アキバに新女王。元気印三人娘登場!

  今もっともアツいアイドル激戦地のアキバに、季節外れの超巨大台風が上
 陸した。
  アキバの路上では週末ともなるとインディーズバンドや新人アイドルの熾
 烈な戦いが繰り広げられている。もちろん格闘トーナメントが行われている
 わけではない、音楽でしのぎを削るストリートライブだ。
  そこにこの春、颯爽と登場したのが広島出身の三人組、Black Perfume。
  脳髄をこねくり回すテクノポップのごきげんなチューンに加えて名門アク
 ターズステージで身に付けた本格的な歌とダンスは折り紙付き、それがカワ
 イイ×3で押し寄せるのだから、アイドルにうるさいA-Boyたちもイチコロ。
  新曲も交えて5曲ほど披露する間にもどんどん人波が膨れ上がり、ノック
 アウトされたアキバのストリートは興奮にあわや暴動寸前! キュートなパ
 ワーそのものが形になったような、破壊力バツグンの彼女たちをアキバでぜ
 ひチェキ!


「おお、載っとる載っとる」
 碇から手渡された音楽誌を開いて大木が嬉しそうに言う。
 秋葉原のストリートライブから二週間、7型ルームにBPと柴山、木野、それにすっかりお馴染みになった碇が集まっていた。
「しかしまた、安っすい文章じゃな、碇さん。読んどるほうが恥ずかしい」
 西秋の手厳しい感想にも碇は動じない。
「まあ、これが僕のスタイルだから。ほら写真もよく撮れてるでしょ」
「綺麗じゃのう、雪の妖精のようじゃ」
 芦野はうっとりした目で掲載された写真を眺めている。降りしきる雪の中、白いツナギで歌い踊るBPは、輝く笑顔で雪をも溶かしてしまいそうだ。
「妖精は言い過ぎじゃが、雪女くらいには見えるかもな」
 西秋もまんざらではなさそうだ。
「他にも二、三の掲載予定があるから、結構注目度はアップすると思うよ。次のライブは動員が倍増するんじゃないかな」
「現場でも手応えがあったからのう。PPPHが起こった時は、これかっ!と思うた」
 大木が笑いながら言う。
「オタクの皆さんはノセるのが上手いんじゃろうな。いつもより張り切ってしもうて、次の日は足がガクガクじゃった」

「ワタシモ コウフン シマシタ」
 7型がLEDを激しく点滅させて言った。BPのライブに実際に参加したことは、7型に強烈な印象を与えたようだ。冷静な処理が特質であるはずのコンピュータが興奮か……。活動の範囲が広がるごとに見られる7型の変化に、木野は敏感になっていた。今後より一層、彼の心歯車バランスを注意して見守らなければ。そう気持ちを引き締める木野だったが、心の中で7型を「彼」と認識していることには気付いていなかった。

「いや実際、僕が見た限りでは相当受けていたと思うよ。とりあえず第一関門は突破した。あとはこの勢いを持続させてムーブメントを起こせるかどうかだよね」
「碇くん、君は最終的に何を狙っているんだい」
 柴山は碇の言葉が気になって尋ねた。
「柴山さん、今やいわゆるオタク市場は3000億円を超える規模で、今後ますますの成長が予想されているんですよ。そればかりか、こうしたコンテンツは国策として積極的に海外進出が図られているんです。そうなれば市場は世界中に広がり兆のオーダーを獲得するでしょう」
 次第に顔を紅潮させながら熱弁を振るう碇を、柴山はうなずきながら見ている。
「僕はBPを、この動きの象徴にしたい。オタクカルチャーのアイコンとして全世界に認知させたいんです。ロンドンで、ニューヨークで、パリ、ベルリンで。上海、シンガポール、モスクワ、リオ、ミラノ、イスタンブールにもセネガルにも、あらゆる国の津々浦々まで、BPの肖像が世界を覆い尽くすんですっ!」
 碇はひとり感動し、うち震えていた。
「全世界とは大きく出たね……。とりあえず今重要なのはセカンドシングルの売り上げだ。オタク市場の力がどれほどのものなのか見守ろう」
 碇の野望に、柴山は慎重な態度を崩さなかった。


★  ★  ★


 BPのセカンドシングルは発売とともに、好評をもって迎えられた。また、秋葉原でのストリートライブは回を重ねるごとに動員数が増え、他のアーティストとは一線を画した盛り上がりで話題を呼んだ。碇の描いた道筋を辿るかのように、BPはオタク界で確固とした位置を築きつつあった。
 上京して一年、彼女たちは高校生になっていた。

「こんにちはー。女子高生テクノトリオのBlack Perfumeでーす!」

 新しいキャッチフレーズで拍手喝采を受けるBP。盛況なライブの様子を見る限り、彼女たちの前途は洋々と思われた。少なくとも今の段階では。


つづく

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【2007/02/21 00:45】 | あばれ旅
Black Perfume
あばれ旅


花の東京で天下を取れ! 大木黒綾ノ、西秋黒文香、芦野黒優香。広島出身のBP三人娘が繰り広げる、愛と涙の大冒険。

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pinksun

Author:pinksun
※このストーリーはフィクションであり、登場人物、団体名等は全て架空のものです。
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